Interview001

遠州流茶道家
堀内 議司男さん

『遠州流・武家茶道って?』

―江戸時代に一世を風靡した遠州流・武家茶道ですが、今日、その本質は意外と知られていない側面もあるように感じます。
今日の時代は、文化的には明治維新以降に確立したものではないかと思っています。明治維新という大転換は、それまでの江戸時代を全否定し、先進的な西洋を取り入れ追いつこう、という風潮を生みました。その結果、江戸の武家文化が前提としていた大名がパトロンになって発展するスタイルが廃れ、能や茶道は一気に勢いを失いました。日本の伝統的な文化があれほど破壊された時代は後にも先にも無いのではないかと思うほどです。武家茶道の遠州流も、この大転換の中でその連続性が一度、ぶつっと切れてしまいました。今も、その影響をひきづっているところがあると思います。
―その失われてしまった茶道にも、最近少しずつ関心が戻ってきているように感じます。ところで、遠州流の茶道というのは、ひとことで言うとなんでしょうか。
「侘び寂び」を追求したのが利休であったのに対して、遠州流の小堀遠州は「綺麗さび」を追求した、と言われています。遠州流は、利休よりも後の時代、江戸時代に確立された茶道です。小堀遠州は、徳川家の茶道指南役でした。戦国の世が終わり比較的平和な時代にあって、王朝文化、室町の書院文化、利休のわびさび、すべての日本文化を取り入れよう、という試みの末に完成されたのが小堀遠州の「綺麗さび」の茶道でした。手前味噌ですが、遠州流を学べば、日本文化に満遍なく触れることができるのではないか、と思っています。
ーなるほど、お茶だけに特化されていないわけですね。
私は武家茶道に限らず、茶道は生き方を表現する場だと思っています。先代の家元が「茶道とは何?」という問いに「私です」と答えたそうです。それぞれの生き方を通して、人と人とをつなげていくのが茶道の世界だと。ですから茶道界には、いわゆる生まれ持った「天才」はいないのだと思います。たとえば点前も道具の知識も作法も完璧な小学生がいたとして、そのような子にお茶をたてられてももしかしたら、面白くないかもしれない。なぜなら、彼には語るべき人生が、まだないからです。逆に、点前も道具も茶道のさの字も知らない80歳のおじいちゃんがいたとして、その方に茶を入れてもらってお話したほうが、ずっと実りがあって面白いのかもしれない。私は、もしかしたらお茶というのは歳を重ねてはじめて実を結ぶものなのではないかと思っています。利休も遠州もが天下一の宗匠となったのは60歳を過ぎてからでした。

『おもてなし文化はお茶から』

ーつまり、お茶は技術や知識よりむしろ、重ねた人生の深さが大事、ということでしょうか。その重ねた年輪が、お茶の味にも出てくるという事でしょうか?
直接的にお茶の味に出るのかというとわかりません。ただ、お茶というのは、舌だけでなく、五感で体感するものだと思います。人生の深みは、そのおもてなしにしっかり現れる、というのはあると思います。お茶自体が非日常(ハレ)です。もともと日本にはマレビト信仰があって、お客様をもてなすことは神様をもてなすことと考えていた。その集大成のひとつが茶の湯なんだろうと思います。
―茶道の原点は「おもてなし」なんですね。
おもてなしには、人と人とを結び付けて新しい関係に発展させるという意味があります。人と人をつなげなければおもてなしは完成しません。それを実践したのが小堀遠州でした。流祖の茶会記を見ると、上は公家から職人まで一堂に会してお茶をたしなみ、交流していたことが分かります。

『芸人とお茶』

―ところで、最近吉本興業の芸人さんと組んでお茶会をされているそうですね。
吉本興業は総合文化プロダクションに生まれ変わるべく伝統文化にも強い関心を持たれたようです。お茶を通じて、幅広い人達との交流を進めようとしている私達の活動と意気投合する部分がありました。お笑い芸人の方々は、何はともあれ伝えることが上手です。伝統文化というと、一歩間違えると敷居が高くなってしまい、なかなか若い方やそもそもお茶に関心の無い方々との接点を持ちにくい悩みがありました。ところが、芸人の皆さんとお茶会を開くと、彼らのファンの方々がお茶会に列をなしてやってきます。一生、お茶とは縁が無かったかもしれない若いファンの方々に、話上手な芸人が悪戦苦闘しながらお茶を点前する。そこにコミュニケーションが生まれる。自然な交流の中でお茶や伝統文化に対する、若い方々の関心のボルテージが高まるのを感じました。
ー最後にひとこと、お願いします。
千原ジュニアさんは、私に「お茶は、MC(テレビの司会者)と一緒ですね」と言われました。「いろいろな人とトークしながら、うまく場を盛り上げていくのが、お茶なのですね」と。まったくその通りだと思います。一人でも多くの方々が、上手にお茶を通じてお互いの交流を深め、人生をさらに豊かにできるよう、私もお手伝いさせて頂きたいと願っています。

堀内議司男さんプロフィール

ほりうち ぎしお
茶名は壺中庵・宗長・遠州茶道宗家で茶道を修業。正式の茶会からカジュアルな茶会まで自由自在に演出。時代を先取りした茶風はマスコミにも取り上げられている。その活躍の場は国内だけでなく、海外にも広げている。

『堀内ギシオ』公式サイト
www.kochu-an.org